Mag-log in「お母様、これ、中の君宛ではありませんの?」
私はお母様に文を差し出して見せた。「何故そんな事があなたに分かるのですか」
「えっ……そ、それは……」 思わず返事に詰まる。まさか夜中に春宮と中の君が狐の鳴き真似をしていたと答えるわけにはいかないし……。
「わ、私宛なのですか? 心当たりがなかったので、てっきり……」
春宮に入内することになっている私には文が届いたとしても渡してもらえないのは当然だから心当たりはなくて当たり前だから少々苦しいが仕方ない。
他に言いようがありませんし……。
「どちら宛だろうと関係ありません。どこの誰かも分からない相手ですし、どちらにしろ初めて贈ってきた方ですから」
そういえば……。
贈られてきた文を渡さないのは必ずしも意地悪とは限らない。
文が贈られてきたら、まず最初に差出人がちゃんとした人かどうかを親や乳母などが調べるのだ。
特に左大臣家の姫なら出世目当てで大勢の殿方が文を贈ってくる。婿にして出世の手伝いをするからには見込みのある者でなければ金の無駄になりかねない。
だから左大臣家ではなくても相手が分からないなら門前払いを食らってしまうのだ(調べる余裕がないとかでない限り)。
そして仮にまともな相手で婿にしてもいいと思われたとしても最初は返事を書かない。
何通か受け取って熱意を認められてはじめて母親か乳母辺りが拒絶するような返事を書く。文のやりとりを何度か続けてようやく姫が返事を書くようになる。
この辺りで姫に文を渡してもらえるようになるのだ。そして更に何度か文をやりとりをして互いの想いが高まってから殿方が三晩続けて通うと婿入りとなる。
春宮からの文だと分かれば中の君に渡してもらえるかもしれないけど……。
というか私がこのまま渡してしまえば……。
ただ――。
春宮が最初は文を渡してもらえないし返事をもらえないという事が分かっているなら?
それなのに下手に渡したりして中の君が返事を書いてしまったら?それも冷たい内容ならともかく『私もあなたを想っています』なんて歌を贈ったりしたら?
春宮がそれを喜んでくれればいいけど、もし『こんな簡単に男に返事をするような女だったなんて』などと軽蔑されたら?
それですぐに終わりならまだしも遊び相手にされてから捨てられたりしたら目も当てられない。
「中の君は縫い物が下手ね」
お母様の言葉で我に返った。「これでは左大臣家に相応しい婿は取れないでしょう。もっとやらせなさい」
お母様の指示で女房が布の山を抱え上げた。あらあら……。
後で中の君の手伝いに行った方がよさそうですわね。
私はとりあえず文のことは保留にして部屋に戻ることにした。
「ところで大君、これは頂き物なのだけれど、あなたが使った方がいいでしょう」
女房の一人がトメに青っぽい香炉を渡す。
「面白い見た目ですわね」
変な形という言葉を飲み込んで言った。「『あふ』というものだそうです」
お母様が言う。「そうですか。ありがとうございます」
私が戻ろうとすると、 「今度、春宮が『またですか?』
と言いそうになるのを危うく抑える。「分かりました」
とだけ答えてそれ以上なにか言われる前に退散した。 部屋に戻るために渡殿(渡り廊下ですわ)を歩いていると、 「風に散る 卯の花の下 ひさかたの 光の照らす 夏の雪かな」 男性の声が聞こえてきた思わず足を止めた。「姫様?」
トメが振り返る。「なんでもないわ」
私は慌てて歩き始めた。橘の香りがしたような気がするのだけど……。
まさかね……。
無理矢理結び付けようとしているだけだ……。
私は首を振った。
どうせ私は入内しなければならないのだ。忘れた方がいいですわ。
「姫様、これはどちらに……」 部屋に戻るとトメに聞かれた。「そこに置いておいて」
私が部屋の隅の「姫様、殿(私の父の左大臣)が物語をいただいたそうです」
私の部屋で控えていた女房が言った。
紙は一枚でも貴重なのだから当然それを大量に使っている本というのはものすごく貴重なので唐櫃にしまわれている(ことが多い)。
貸し借りで一、二冊程度を持ち運ぶ時は
左大臣の娘に産まれて良かったと思うのはこう言う時ですわ!
出世したい貴族達がご機嫌取りのために贈り物をしてくれるし、借りた本を書き写すのに紙のことを気にする必要がない。
今回は贈られた物だから返さなくて良いので書き写す必要もない。考えてみればお父様が左大臣と言うだけではなく、私は将来の女御である。
皇子を産んでその子が春宮、ひいては帝になれば私は帝の母というのは政にも口を出せるし、場合によっては外祖父(つまり私のお父様)より影響力を持ったりするから機嫌を取っておいて損はないのだ。
ちゃんと物語をくれたことは覚えておきますわ。どなたか存じませんけど!
「じゃあ、妹達を呼んできて」
私がそう言うと女房達が出ていった。待っている間に全部取りだして一通り目を通してみたがやはりあの物語はない。
まぁそう上手くはいきませんわね……。
あんなに人気があったのに後世に残らないなんて――。
となると本当に中宮と左大臣家に関するイケナイ
なら尚のこと読みたいですわ!
前世の私は最後まで読んだのかしら?
それなら夢で結末まで見られるかもしれないけど……。
「中の君はいらっしゃれないそうです」
妹達を連れて戻ってきた戻ってきた女房が報告した。「気分でも悪いの?」
楽器の音は聴こえないから、楽器の稽古中というわけではないだろう。「縫い物があるそうです」
そんな急を要する縫い物があるとは思えないけど……。
まさか、ホントに私が告げ口したと思ってるから来たくないとか……?
「お姉様、物語読んで下さるの?」
三の姫がやってきた。「姫様は手習いが……」
三の姫の乳母が顔をしかめる。「物語を読んだらちゃんと手習いをするって約束できる?」
私が三の姫に訊ねると、 「はい!」 三の姫が元気よく頷いた。頂き物の物語は数話を一冊にまとめたりはしていない。
一話一冊くらいだろうから読んでもそれほど時間は掛からないだろう。そんなに短い話が一話で一冊の本? と思うかも知れませんけど、贈答用の本というのは豪華な装丁を施してあるんですのよ。
だから厚みの割に話は短かったりするんですの。「トメ、中の君を呼んできて」
とトメに言った。「ですが、縫い物が……」
「縫い物も一緒に持ってくればいいでしょ。聞きながら縫えばいいわ」 私がそう言うとトメが中の君を呼びに出ていった。中の君が来て皆が揃ったところでトメが物語を読み始めた。
トメが物語を読み終えると――予想通り、物語は一冊一話だったから短かった――三の姫は手習いのために部屋に戻っていった。
私と中の君はそのまま二人で縫い物をしていた。
さっきから中の君が二階棚の方をちらちらと見ている。 香炉が気になっているようだ。私の視線に気付いた中の君が、
「す、すみません」 と言って慌てて布に目を落とす。私は布を置くと香炉を手に取った。
「これ、珍しい形よね」
と私が言うと、 「それは『おほむ』という鳥だと思います」 中の君の言葉に背筋が凍り付く。「お、お母様は『あふ』って……」
「『おほむ』をぼとっ……。
手から香炉が落ちる。
「
見ている人が少ないところで渡したら、後で中の君の部屋に置いてある香炉を見た使用人の誰かがお母様に『中の君が大君の香炉を盗んだ』などと告げ口するかもしれない。
そんなことになったら中の君の立場が悪くなる。
「姫様?」
トメの怪訝そうな声に、 「あ、重いから手が滑ってしまったみたい。そこに置いておいて」 私はそう言ってトメに香炉を渡した。せめて、あの物語を思い出すことが出来てこの先どうなるのかが分かれば……。
「男は歌を詠んで姫君に文をお送りになりました」 キヨが物語を読んでいた。「使用人はその文を言い付けとおり姫君に渡しませんでした。女(主人公に嫌がらせをしている姫君)が文を見ると歌が書いてありました」
〝
私(左大臣の大君の方!)は飛び起きた――!
敬称略 順不同鏡山昭典『私撰 枕ことば辞典』阿部萬蔵・阿部猛『改訂版 枕詞辞典』八條忠基『詳解 有識装束の世界』倉本一宏『平安京の下級官人』和田英松『官職要解』榎村寛之『斎宮-伊勢斎王たちの生きた古代史』承香院『あたらしい平安文化の教科書』繁田信一『平安朝の事件簿 王朝びとの殺人・強盗・汚職』こさかべ陽子『よく分かる平安時代』『平安時代の絵事典』『光る君へ』ついに最終回…時代考証が語る平安貴族の「政治」と「恋愛」<上>https://www.yomiuri.co.jp/column/japanesehistory/20241209-OYT8T50192/『光る君へ』ついに最終回…時代考証が語る平安貴族の「政治」と「恋愛」<下>https://www.yomiuri.co.jp/column/japanesehistory/20241209-OYT8T50194/望月光『望月光の古文教室 古典文法』荻野文子『マドンナ古文 パーフェクト版』『落窪物語』『平中物語』『御堂関白記』『小右記』『堤中納言物語』『日本書紀』『古事記』『古今和歌集』『山槐記』『源三位頼政集』小松英雄『伊勢物語の表現を掘り起こす』望月光『望月光の古文教室 古文読解編』荻野文子『マドンナ古文常識217』荻野文子『マドンナ古文和歌の修辞法』岡本梨奈『岡本梨奈の1冊読むだけで古文の読み方&解き方が面白いほど身につく本』木下武司/亀田龍吉『万葉集 植物さんぽ図鑑』成清弘和『律令家族法の研究』『令義解』『律令制と古代社会』河添房江『紫式部と王朝文化のモノを読み解く 唐物と源氏物語』八條忠基『有職故実から学ぶ年中行事百科』梶川敏夫『ビジュアル再現 平安京 地中に息づく都の栄華』梶川敏夫『新版よみがえる古代京都の風景
〝橘の よりちかき香は ならのはの はねのはやしは 深紫と〟 歌の下の句で「はねのはやしは 深紫と」と言ったのは、初句の『橘の』は近衛と言う意味ではない(『右近衛府』を『右近の橘』ということがあるため)だと思っていた。『ならのはの』は枕詞なので意味はありませんのよ。『羽林』は近衛府の大将から少将までを指す言葉で官位は従三位から正五位下で色は深紫、自分は六位(色は深緑)だから羽林ではない。 それでも敢えて羽林と言う言葉を使ったのは『橘』は『近衛』と言う意味ではなく名字だ、という意味だと解釈していたのだけれど――。 考えすぎだったのかしら……。 私は首を傾げた。 もしかして思っていたより歌が得意ではないとか?「それに六位って……太政大臣の跡継ぎなら蔭位は従五位下のはずよ」 六位なのは深緑の位襖を着ているのだから間違いないはずだ(官位によって着ていい色が決まっているんですのよ)。 自分より下の位階の色を着るのは構わないから(上の官位の色は勅許がない限り禁止)、深緑が好きとかそういう理由で実際は五位だけど六位の位襖を着ていたとか? そんなことありますの?「私が引き取られてしばらくしてから北の方が息子を産んだので」 ああ……。 それも良くある話だ。 正妻に跡継ぎが産まれないからと他の妻が産んだ息子を後継者にしたら嫡男が産まれる。 昔の帝ですらそれで揉めて一度は皇統が分かれてしまったくらいだ。 一位の庶子なら蔭位は正六位上である。「だから橘を名乗っているのです」 「お母様が橘だったってこと?」 お祖父様(お母様のお父様)の政敵になるほどの大貴族(元)に『橘』なんていたかしら? 私は首を傾げた。「いえ、母や妹が住んでいたのは橘の里として有名なところだったので」 「
私(左大臣の元大君の方)が首を傾げていると――。「〝みや〟は私の父親違いの妹です」 頼浮が言った。「……つまり、私はお母様の不義の子で、あなたはお兄様ってこと?」 私が訊ねる。 お母様がお父様を婿にする前に他の殿方を夫にしていた時期があって、その時に頼浮を産んだのでないのならそういう事になる。 だとすると――。 せっかく入内しなくて良くなったのに……。 帰る家を失った上に頼浮と異父兄妹なんて……。 これでは結局結ばれることが出来ないのは同じだ。 なんてことですの……。 では、通ってきて婿になる気はなかったと言う事ですのね。 それとも左大臣の姫なら兄妹と言うことを隠して婿になってもいいと思っていたとか? そして今は左大臣の姫ではなくなってしまったから明かしたということ? 帰る家を失った上に散々ですわ……。 私は肩を落とした。 とはいえ妻というのは基本的に夫の出世の手伝い(と跡継ぎ)のためにいるのだから左大臣の娘ではないどころか貴族ですらなくなり財産もない今の私では相手にしてくれる殿方などいるはずないのだ。 夫に養ってもらう妻もいるが、それは男性が出世して財産も出来てからの話である。「北の方ではない妻が産んだ姫――中の君です。左大臣の中の君の名は美也というのです」 「私と同じ名前でしたの!? お父様ったら!」 いくらなんでもいい加減すぎますわ! 感傷に浸っていましたのに、ぶち壊しではありませんか!「母は私の父に捨てられて苦しい生活を送っていたのです。それで左大臣が一時期、母を援助して下さっていました。美也はその時に出来た娘です」 援助と言いつつすることはしてたって事なのね……。 とはいえ、そもそも面倒を見るというのは妻にするという事なのだが。 親が娘に大して財産を残さなかった場合、女性は夫に捨てられたらすぐに生活
「この子をお願いします」 そう言って私(左大臣の大君の方)に猫を渡すと中の君が牛車から降りた。 中の君は私が初めて会った日にあげた孔雀の羽を持っている。 皆が見ている前で大君として出ていったのだからもう引き返せない。 牛車の中に残った私も――。 * お父様は中の君がこれ以上狙われることのないように死んだことにした。 遺体があると死穢に触れてしまうからという理由で重症だった中の君を人の訪れがない寺に運び込んだ。 我が子と言えど死穢は死穢だから触れないために見ないようにするというのは珍しくない。 特に左大臣ともなると公式行事の予定が詰まっているし、他の者と違って簡単に欠席することも出来ないのだから尚更だ。 中の君はその寺で介抱を受けて助かった。 お父様は最初、中の君を狙っている者を捕まえたら生きていたと明かして左大臣家に連れ戻すつもりだった。 しかし犯人は叔父様で、私や三の姫、四の君を巻き添えにしてまで中の君を亡き者にしようとしたと判明した。 しかも叔父様がそんなことをした理由を考えたら中の君が生きていると知られるとまた狙われるかもしれない。 今回は叔父様ただ一人でやったこととされた。 そして、叔父様は遠流(遠い土地への流罪ですわ)になった。 だが叔母様やお母様が同じことをしないという保証は?――もちろん、ない。 次に中の君が狙われたら再び私や妹達が巻き込まれるかもしれない。 そのときは巻き添えになった私達も助からないかもしれないと考えたお父様は中の君を死んだままにしておくことにした。 こうなったら中の君を別の娘ということにして知り合いの貴族に養女にしてもらうしかない、そう考えた時、今度は春宮が出家すると言い出した。 お父様が春宮に啓す(申し上げるって意味ですわよ)と言ったのはこのことである(私は中の君のことをお父様から聞いて知っていましたのよ)。 私はそれを止めたのだ。 春宮に中の君が生きていると
数日後―― 私(左大臣の大君の方)は松姫から頂いた物語を全て読み終えた。 やはり桜の枝を全部切ったとは書いてなかった。 そもそも〝女〟が出てくる前に桜を贈ったのは別れるときの一枝だけで、再会後は贈っていない。 思い込みだったのだ。 読む前に吉野の枯れた桜の話を聞いていたから。 そして縫い物。 物語の姫君は縫い物が上手かった。 だから継母は姫君に大量の縫い物を押し付けたのだ。 けれど中の君はお世辞にも上手いとは言えなかった。 お母様が中の君に縫い物をさせていたのは中の君が下……あまり得意ではなかったからだ。 左大臣家の娘として婿を取ることになるのなら縫い物が上手くなければならないから。 箏の演奏も同様で、物語の主人公は名手で妹に手ほどきしていた。 ついでにいうと物語の主人公は〝中の君〟ではなかった。 というか〝中の君〟と書いてあるところは無かった――松姫の書いた物語には。 それも私の勘違いだった。〝同胞〟と書いてあったのが〝女〟と一緒に出てきた場面だから当然なのだが。 松姫の物語には〝女(意地悪をしていた姫君)〟は全く出てこなかった。 そして孔雀や鸚鵡の香炉は〝女〟と一緒に出てきたのだから当然、松姫が書いた物語には出てきていない。〝女〟が出てきてからの話は松姫以外の誰かが書いたのだろう。 時々あるのだ。 物語の先を読みたいと思った別の誰かが勝手に続きを書いてしまうことが。 あるいは、そもそも続きではなく別の話が混同されたのかもしれない。 継子いじめ譚は人気があるから多くの人が書いていた。 どちらにしろ、松姫の物語は私や中の君の話ではなかったのは間違いない。 疑問は解けましたけど……。 いなくなった人達は戻ってこない。 もう取り返しが付かないのだ。 私は深い溜
私(左大臣の大君の方)が目を覚ますと、また陰陽師と僧侶達の祈祷や読経の声が聞こえていた。「姫様……」 トメが声を詰まらせる。「今回は痘瘡じゃないわよね?」 そう言った私の声は驚くほど掠れていた。「召し上がったものの中に毒が……」「あなた達は大丈夫だったの!?」 飛び起きたかったが身体が動かなかった。 夢で見た物語の毒は今回のこと!?「姫様方だけが召し上がられたので……」 ならお菓子だろう。 珍しくて数が手に入らないお菓子は主人しか食べない。「妹達は!? 無事なの!?」 物語で儚くなったのは末の妹だったはず。 左大臣家なら四の姫だ。「三の姫様も四の姫様もお元気です」「元気?」 まだ子供で身体が小さいのに?「三の姫様と四の姫様は召し上がられませんでしたので」 小さい子供がお菓子を食べなかった……?「ご親戚の方が姫様方にとお菓子を贈って下さったんです。ただお客様がいらしたので数が足りなくて……姫様と中の君だけが……」 三の姫も食べなかったのなら贈られたのは娘の人数分だけだったのだろう。 だとすれば私達を狙ったと言うことだが――。 私達を親戚が狙った? 一体なんの理由があって? 数日後―― 陰陽師や僧侶の声が止まった。 中の君は助からなかった。 私達は沈痛な面持ちで墨染めの衣裳を着て俯いていた(喪に服す時に墨染めの色を纏った)。 三の姫や四の姫、女房達は泣いていた。「姫様、申し訳ありません!」 女房の一人が泣きながら謝った。「あなたが毒を入れ
明日の晩は三の姫と四の姫を私の部屋で寝かせるように乳母達に言い付けておきましょう。 中の君にも一応忠告しておいた方がいいかしら? 私は迷った。 中の君はもう子供ではないから春宮が幼い子供にしか興味がないなら大丈夫だと思うけど……。 春宮を慕っている様子だし「春宮は子供が好き(悪い意味で)」なんて言ったら中の君は気を悪くするだろうし、信じてくれないだろう。 信じてくれたら信じてくれたで美しい思い出を壊してしまうわけだし――。「宴?」 中の君が聞き返した。「ええ、殿方がたくさん来るでしょ。中には不心得者もいるし。だから、よければ私の部屋に……」 春宮では
「とてもお優しくしていただきました」 中の君が懐かしそうな表情で言った。 優しかった理由が子供だったからではないといいのだけれど……。「姫様」 トメの声で我に返った。 私が身振りで中の君に渡すように指示する。 トメが中の君に孔雀の羽を差し出した。「見事と言うほどではないけど……」「いいえ! とてもきれいです! ありがとうございます!」 中の君が嬉しそうな表情で受け取る。「春宮様から孔雀の話をうかがって以来、ずっと見てみたいと思っていたんです」 ああ、なるほど……。 内裏には孔雀がいるから……。 だとしたら猫を飼っていた幼馴染みというのも春宮だろう。 帝は猫
「春宮様、あちらへお逃げ下さい」 目の前の人が言った。 若い男性の声だ。「分かった」 春宮が逃げていったのと入れ違いに複数の足音が近付いてきた。 警護の者達に私の声が届いてしまったらしい。 私が急いで二の姫の寝所に入ると男性は妻戸に立って中が見えないようにしてくれた。「何があった!」 駆け付けてきた随身(警護の者)達に、 「春宮様はあちらへ行かれた」 若い男性が答える。 随身達は春宮が逃げた方向へ足早に向かった。「二の姫、大丈夫?」 私の問いに二の姫が震えながら頷く。「もう大丈夫だから寝なさい」 私がそう言うと二の姫は素直に横になっ
ないのだ。 あの物語を今世で読んだ記憶がない。 有名だし大人気だったはずなのに前世のことを思い出すまで私はあの物語を知らなかった(当然、持っていませんわ)。 生まれ変わっても私の好みはあまり変わっていなかったらしく、やはり物語が好きで沢山の本を持っていた。 まぁ金持ちであろうと、なかろうと貴族の姫の楽しみは限られている。 乳母子を始めとした女房達とおしゃべりをするか囲碁を打ったり貝合をするか物語を読むか、である。 囲碁や貝合は苦手だから、そうなると女房達とおしゃべりか物語を読むかだが話をするにしても話題が必要でしょ? お父様の、 「孔雀うるせー!」 「帝の猫が







